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広島地方裁判所 平成4年(行ウ)6号 判決

広島市東区戸坂くるめ木一丁目一番一三号

原告

品川要

広島市中区上八丁堀三番一九号

被告

広島東税務署長 有藤秀樹

右指定代理人

岡田克彦

森岡孝介

戸田哲弘

米森栄次

小野員義

主文

一  本件訴えのうち延滞税賦課決定の取消請求に係る部分を却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成元年二月六日付けでした原告の昭和六二年分の所得税の更正並びに過少申告加算税及び延滞税の賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和六二年分の所得税について、原告のした確定申告、これに対して被告が平成元年二月六日付けでした更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定並びに右各課税処分に関する不服申立ての経緯は、別表一記載のとおりである。

2  しかし、本件更正は、原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、これを前提としてなされた過少申告加算税及び延滞税の賦課決定も違法である。

3  よって、本件更正並びに右過少申告加算税及び延滞税の賦課決定の取消しを求める。

二  本案前の主張

延滞税の納付の通知は、延滞税の賦課決定でも納税の請求手続きでもなく、単に延滞税の納付義務の存する旨の観念の通知にすぎず、これを行政処分その他の公権力の行使に当たる行為ということはできないから、その取消しを求める訴えは、不適法であり却下されるべきである。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は争う。

四  抗弁

原告の昭和六十二年分の総所得金額は、次の1ないし3の金額の合計三二一六万四六五七円であって、本件更正は、その範囲内でなされたものであるから適法であり、これを前提とする過少申告加算税の賦課決定も適法である。

1  利子所得等の金額について

原告の昭和六二年分の利子所得の金額は、三六万七一〇六円であり、配当所得の金額は、八九万五三八三円である。

2  給与所得の金額について

原告の昭和六二年分の給与所得に係わる収入金額は、社会保険庁からの年金に係る一〇三万三二五七円と広島県知事からの年金に係る五三万五四七五円との合計額一五六万八七三二円であるから、その給与所得の金額は、所得税法(昭和六三年法律一〇九号による改正前のもの。以下同じ。)二八条四項の規定により、九四万八〇〇円となる。

3  雑所得の金額について

(一) 原告は、自己の計算において、昭和六二年中に第一証券株式会社広島支店(以下「第一証券」という。)及び東洋証券株式会社広島支店(以下「東洋証券」という。)に委託して、別表二の番号1ないし82記載のとうり、合計一八五万一〇〇〇株の株式の売買を行い(以下、右取引を「本件取引」という。)三〇〇一万五〇九〇円の売買益を得た。

(二) ところで、所得税法九条一一号及び同法施行令(昭和六二年政令三五六号による改正前のもの。以下同じ。)二六条一、二項によれば、有価証券の譲渡による所得は、原則として課税されないが、(1)売買回数が五〇回以上である場合、(2)売買した株式又は口数の合計が二〇万以上である場合は、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得として、非課税所得の対象とならないこととされている。

そして、右(1)にいう売買回数は、証券会社との間の委託契約ごとに売付け、買付けのそれぞれを一回として計算するもので、具体的には、委託契約の内容につき〈1〉銘柄の変更、〈2〉売付け又は買付けの区分の変更、〈3〉株式数の変更、〈4〉指値の変更、〈5〉注文の有効期限の変更等重要な要素の変更が行われたときは、当該変更の時において別個の委託契約が締結されたものとして売買回数を計算することになる。

(三) 本件取引の売買回数は、別表二の「被告の主張する売買回数」欄のとおり五五回である。

(1) 別表二の番号12ないし14(以下「12ないし14番」のように表記する。)の取引について

昭和六二年四月九日(以下、特記しない限り、日付は、昭和六二年のものである。)のニフコ株一〇〇〇株の買付け(12番)は、同月八日の注文に対する内出来であるが、同月一三日の同社株合計四〇〇〇株の買付け(13、14番)は、同日の別注文によるものであるから、両者は別個の取引であり、売買回数は、それぞれを一回として計算し、二回とすべきである。

なお、12番の取引に係る同月八日の買付委託は、期限を今週としているから同月一一日の土曜日で失効しており、原告は、同月一三日の月曜日に改めて発注したものである。

(2) 18ないし20番の取引について

六月二二日の中国電力株合計二五〇〇株の買付け(18、19番)は、同月一九日の注文に対する内出来であるが、同月二三日の同社株二〇〇〇株の買付け(20番)は、原告が同月二二日一七時四〇分(以下、時刻は二四時間制で表記する。)に期限を今週として新たに二五〇〇株注文したものに対する内出来である。したがって、両者は、別個の取引であるから、売買回数は、それぞれを一回として計算し、二回とすべきである。

(3) 42ないし47番の取引について

一二月二五日の住友建設株合計一万株の売付け(42、43番)は、同日一四時五二分の注文(現物取引、成行)に対するもの、同日の中国電力株合計二八〇〇株の売付け(44、45番)は、右注文とは内容の異なる同日一四時五〇分の注文(信用取引、指値一九八〇円)に対する内出来であり、同月二六日の同社株五〇〇〇株の売付け(46番)は、同日八時五二分の注文に対するもの、同月二八日の同社株一〇〇〇株の売付け(47番)は、同日八時四九分の注文に対するものであるから、いずれも別個の取引と見るべきであり、売買回数は、それぞれを一回と計算し、四回とすべきである。

(4) 77ないし79番の取引について

八月三日の九州電力株合計三三〇〇株の買付け、(77、78番)は、同日九時三五分の注文に対するものであり、同日の同社株三〇〇株の買付け(79番)は、右注文と内容の異なる同日一〇時三七分の注文に対するものであるから、別個の取引と見るべきであり、売買回数は、それぞれを一回と計算し、二回とすべきである。

なお、所得税基本通達九-一五(平成元年一二月六日付け改正前のもの。以下「基本通達九-一五」という。)は、「当該株式又は出資の売買が、証券会社との一の委託契約に基づいて行われたことが明らかでない場合」を前提とするものであって、本件のように指値及び注文の有効期限が相違する等当該契約内容が明らかに別個の契約の場合には同通達の適用はない。

(四) 右のとおり、本件取引の回数は五〇回以上であり、売買株数の合計も二〇万株を超えるので、本件取引による所得は、所得税の課税対象となる雑所得に該当する。

(五) したがって、原告の雑所得の金額は、本件取引による売買益三〇〇一万五〇九六円から広島市信用組合戸坂支店の手形借入に係る支払利子の額五万三七二八円を差し引いた二九九六万一三六八円となる。

五  抗弁に対する認否及び原告の主張

1  抗弁1、2は認める。

2(一)  同3の(一)のうち、原告が48番の取引をしたことは否認し、その余は認める。原告は、当初、右取引をしたことを認めたが、それは、原告が申込みの仲介をしただけであって、原告の取引ではなく、右自白は、真実に反する陳述で錯誤に基づいてしたものであるから、これを撤回し、否認する(被告は、右自白の撤回に意義がある。)

(二)  同(二)は争う。

(三)  同(三)のうち、1ないし11、15ないし17、21ないし41、49ないし76、80ないし82番の各取引についての売買回数が被告主張のとおり四四回と計算されることは認め、その余は否認ないし争う。

(四)  本件取引の回数は、右争いのない売買回数に次の(1)ないし(4)の四回を加えた四八回である。

(1) 12ないし14番の取引について

四月九日のニフコ株一〇〇〇株の買付(12番)及び同月一三日の同社株合計四〇〇〇株の買付(13、14番)は、いずれも原告が同月八日一四時二三分、同社株五〇〇〇株を指値一五五〇円、期限を来週として買発注したものに対するものであるから、売買回数は一回とすべきである。

同月一三日一〇時一四分の注文(13番の注文欄参照)は、第一証券の担当者が、右四月八日の買注文を期限今週の売注文と間違えたために、指値を一五〇〇円と変更して売注文したことにしたものである。実際には買発注であるから、指値以下の値が付けば自動的に約定は成立するはずであって、指値を変更する必要はなく、右担当者の間違いにより混乱を来したにすぎない。

(2) 18ないし20番の取引について

六月二二日の中国電力株合計二五〇〇株の買付け(18、19番)と同月二三日の同社株二〇〇株の買付け(20番)は、いずれも同月一九日の五〇〇〇株の注文に対する内出来であるから、売買回数は、一回とすべきである。

原告が同月二二日一七時四〇分に新たに注文をしたことはなく、コンピューターの処理能力の関係で伝票が差し換えられたにすぎない。原告が指値を変更したのは、同月二三日一〇時であり、同日二〇〇株の買付(20番)は、それ以前の同日九時五分に成立したものである。

(3) 42ないし47番の取引について

一二月二五日の住友建設株合計一万株の売付け(42、43番)、同日の中国電力株合計二八〇〇株の売付け(44、45番)、同月二六日の同社株五〇〇〇株の売付け(46番)及び同月二八日の同社株一〇〇〇株の売付け(47番)は、いずれも原告が同月二五日に住友建設株と中国電力株の売付けを一括して注文したものに対するものであるから、売買回数は、併せて一回と計算すべきである。

(4) 77ないし79番の取引について

原告は、八月三日九時三五分に九州電力株三六〇〇株を買発注し、同日午前中に合計三三〇〇株の買付け(77、78番)が成立し、後場になって残り三〇〇株の買付け(79番)が成立した。右発注は、出合注文であり、指値以下に値下がりしたので自動的に午後の三〇〇株の約定ができたものである。したがって、77ないし79番の取引は、いずれも右八月三日九時三五分の注文に対するものであるから、売買回数は一回とすべきである。

また、仮に、両者が別個の取引であるとしても、基本通達九-一五の注書きが適用されるので、売買回数は、一回と計算すべきである。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一本案前の主張について

延滞税の納税義務は、国税通則法六〇条一項所定の要件を充足することによって、法律上当然に成立するものであり、また、同条二項及び同法一五条三項八号により右納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであって、延滞税の納税義務の成立ないし税額の確定に関し、賦課決定等の行政処分の介在する余地はない。

したがって、本件訴えのうち、延滞税の賦課決定の取消を求める部分は、取消訴訟の対象を欠き、不適法というべきである。

第二本案について

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁1、2 (原告の昭和六二年分の利子所得、配当所得及び給与所得の各金額)については、当事者間に争いがない。

三  同3(原告の昭和六二年分の雑所得の金額)について

1  同3の(一)のうち、原告が48番の取引をしたことを除くその余の事実は、当事者間に争いがない。

そこで、原告が48番の取引をしたかどうか検討する。

原告は、平成四年七月二三日の第二回口頭弁論期日において48番の取引についても原告が行ったことを認めていたが、平成五年七月一日の第七回口頭弁論期日において、右自白を撤回するに至ったもので、まず、右自白の撤回の有効性につき判断するに、証拠(甲二一の1・2、乙三、五、七、八の1ないし3、九、一〇及び弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 48番のNTT株一株の取引は、原告二女の子であり、昭和五七年一〇月一二日生まれの尾崎友彦(以下「尾崎」という。)名義で、昭和六一年一一月一八日に東洋証券に対して買付注文が行われ、昭和六二年一月一三日に単価一一九万七〇〇〇円で約定が成立し、尾崎名義の口座に保護預りとなっていたが、同年二月二三日、尾崎名義の口座から出庫され、同日、原告名義の口座に入庫された。

(二) 右株式の申込みに当たって作成された買付申込受付票(乙八の1)、出庫請求受領書(乙八の2)及び印鑑票・保護預り口座設定申込書(乙八の3)における氏名、住所欄の筆跡は同一人のものと認められるところ、それは、原告が自ら作成したものと認められる昭和六二年分の所得税の確定申告書(乙九)、所有株式・取引証券会社等についてのお尋ねの回答書(乙一〇)の氏名、住所欄の記載の筆跡と極めて類似しており、右各書面は、いずれも原告が記入した可能性が高い。

以上の事実に、当時、NTT株の取得希望者が多く、抽選となったため、取得を希望する者の多くは、家族、親類、友人等の名義を借りて証券会社に購入申込をしたこと(これは公知の事実である。)、当事者間に争いのない事実からすれば、原告は、多数の株式取引の経験があり、NTT株取得の動機も十分にあるのに対して、尾崎は、同時四歳にすぎず、右株式取得の意思も能力もないと考えられること、原告は、右取引については、不服申立手続の段階及び本件の審理を通じて、右自白の撤回に至るまで何ら問題としていなかったこと等の事情を総合すれば、右株式の取得は、原告が孫である尾崎の名義を借りて行ったものと認めるのが相当である。

なお、平成五年六月三日付けで尾崎名義の無償譲渡証明書なる文書(甲二二)が作成され、それには、同人がNTT株を入手して、原告に保管を委託したとの記載がなされているが、尾崎は、右作成当時まだ一〇歳であり、その内容、文言からして到底同人の意思に基づいて作成されたものと認めることはできず、その記載内容も到底信用することができない。

したがって、48番の取引も原告が行ったものであって、この点に関する原告の自白は、真実に反するものではなく、その撤回は無効であるから、右取引を原告が行ったことは当事者間に争いがないことになる。

2  同3の(二)(売買の回数の算定基準)について

(一) 所得税法九条一一号及びこれを受けた同法施行令二六条一、二項によれば、有価証券の売買による所得については、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得のみが課税の対象となるが、当該年中における株式又は出資の売買の回数が五〇回以上であり、売買をした株数又は口数の合計が二〇万以上である場合には、右売買による所得は、営利を目的とした継続的行為と認められる取引から生じた所得とみなされ、課税の対象となる。

(二) そこで、右売買の回数の算定基準について検討する。

一定回数以上の株式の売買について課税がなされるのは、その営利性、継続性の故であるところ、右の意味における営利性、継続性は、株式の売買により利益を得ようとする投資家の側に求めるべきことはいうまでもないから、本件取引のように、投資家が証券業者に委託して株式の売買取引を行う場合においては、売買の別、銘柄、数及び価格の決定をすべて証券会社に一任するような特別の場合を除き、証券業者が委託に基づき証券市場において現実に行う売買の回数ではなく、投資家の証券業者に対する委託契約の回数を基準として、当該株式の売買の回数を算定すべきである。そして、右のような株式売買に対する課税の根拠からすれば、右委託契約の回数は、結局、投資家の取引意思の回数に還元されるものというべきであるから、その算定に当たっては、株式の銘柄、値段、数量、売付け・買付けの別、注文の有効期間等の諸要素を総合した上で、投資家の取引意思を合理的に解釈してこれを決すべきであるが、その際は、時々刻々変動する株価の特質からして、特段の事情のない限り、日時の異なる注文は別個の契約とみるべきである。

3  同3の(三)(本件取引における株式の売買の回数)について

(一) 同3の(三)のうち、1ないし11、15ないし17、21ないし41、49ないし76、80ないし82番の各取引についての売買の回数が被告主張のとおり四四回と計算されることは当事者間に争いがない。

(二) そこで、争いのあるその余の取引について、前期2の算定基準に従って、売買の回数につき検討を加えることとする(以下、事実を認定した場合に、認定事実の末尾に認定に供した証拠を掲記することがある。

(1) 12ないし14番の取引について

12番の取引に係る第一証券の株式買付注文伝票には、銘柄がニフコ株、発注日時が四月八日一四時二三分、数量が五〇〇〇株、単価が指値で一五五〇円、期限が今週と記載され、同月九日一〇時四〇分に一〇〇〇株につき単価一五五〇円で内出来として約定が成立した旨記載されている(乙二の一二頁)。また、13及び14番の取引に係る株式買付注文伝票(二通)には、それぞれ銘柄がニフコ株、発注日時が同月一三日一〇時一四分、数量が四〇〇〇株、単価が指値で一五五〇円、期限が今週と記載され、同日の一一時に一〇〇〇株につき単価一五五〇円で内出来として約定が成立し、更に、同日一四時五〇分に残りの三〇〇〇株につき単価一五〇〇円で約定が成立した旨記載されている(乙二の一三頁及び一四頁)。そうすると、13及び14番の取引は、同一日時の買付注文によるものであるから一個の取引とみるべきであるが、12番の取引は、右注文とは日時を異にする注文による取引であるから、13及び14番の取引とは別個のものとみるべきであり、結局、12ないし14番の取引の売買の回数は二回とするのが相当である。

この点につき、原告は、12ないし14番の取引は、四月八日一四時二三分の買付注文に基づくものであり、同月一三日に改めて注文したものではなく、同日付けの買付注文伝票が作成されたのは、期限を来週までとして注文していたのに、伝票には「来週」という期限を記載する欄がなかったため、第一証券の担当者が翌週の同日付けで勝手に伝票を起こしたにすぎないものであると供述する。しかしながら、注文伝票に記載のない事項について注文をうけることは、大量の株式を反復継続して取り扱う証券会社の業務にかんがみると、不自然であって(「今週」に限定しないのなら「出合い」とするはずである。)、四月八日の買付注文において期限を来週と指定したとの原告の供述は、にわかに信用し難く、むしろ、右買付注文伝票の記載に照らすと、四月八日が水曜日であり、期限を「今週」とする同日付けの注文が同月一一日の土曜日で失効したため、原告は、月曜日である同月一三日に残りの四〇〇〇株について新たに注文したものとみるのが自然である。

なお、第一証券作成の書面(甲七の2)には、12番の取引のみならず、13及び14番の取引も四月八日の注文に基づくかのような記載があるが、12ないし14番の取引は、買付けであるのに、右書面には、売付けと記載されていたり、指値の変更はなされていないのに指値変更があった旨記載されているなど内容が不正確であって信用できない。

(2) 18ないし20番の取引について

18及び19番の取引に係る第一証券の株式買付注文伝票(二通。以下、18番の取引に係る伝票を「A伝票」、19番の取引に係る伝票を「B伝票」という。)には、それぞれ銘柄が中国電力株、発注日時が六月一九日一四時一二分、数量が18番については五〇〇〇株、19番については四八〇〇株、単価が七位で二五〇〇円、期限が出合いと記載され、同月二二日一二時五〇分に二〇〇株につき、同日一五時に二三〇〇株につきそれぞれ単価二五〇〇円で、内出来として約定が成立した旨記載されている(乙二の一八頁及び一九頁)。また、20番の取引に係る株式買付注文伝票(以下「C伝票」という。)には、銘柄が中国電力株、発注日時が同月二二日一七時四〇分、数量が二五〇〇株、単価が指値で二五一〇円、期限が今週と記載され、同月二三日一一時五九分に二〇〇株につき単価二五〇〇円で内出来として約定が成立した旨記載されている(乙二の二〇頁)。

右注文伝票の記載によれば、18及び19番の取引は、同じ六月一九日の買付注文による一個の取引であるが、20番の取引は、これとは注文年月日、注文株数、指値、期限が異なる同月二二日の別個の買付注文によるものと認められる。しかし、第一証券作成の甲一の5の株式買付注文伝票(以下「D伝票」という。)には、銘柄が中国電力株、発注日時が六月二二日一七時四〇分、期限が今週と記載され、注文数量欄の記載は、二五〇〇円が二五一〇円に訂正されており、また、訂正取消欄には、六月二三日一〇時二〇分に指値が二五一〇円に変更された旨記載されている。D伝票の注文数量の四八〇〇株は、A伝票の数量五〇〇〇株から18番の取引による二〇〇株を差し引いた数量(これは、B伝票の注文数量に一致する。)であり、これが二五〇〇株、更に二三〇〇株に訂正されているのは、右四八〇〇株から19番の取引による二三〇〇株、20番の取引による二〇〇株がそれぞれ差し引かれた残数量が記載されたものであり、指値が二五〇〇円から二五一〇円に訂正されているのは、六月二三日一〇時二〇分に指値が変更されたことを表しているものと認められる。もし、D伝票の記載が正しいとすると、原告は、六月十九日に中国電力株五〇〇〇株を指値二五〇〇円で期限出合いとして買付注文をし、同月二二日一七時四〇分に右注文数量五〇〇〇株から同日の内出来数合計二五〇〇株を差し引いた残数量二五〇〇株につき期限を今週中と変更し、更に同月二三日一〇時二〇分に指値を二五一〇円に変更したことになるところ、第一証券の担当者は、同月二二日一七時四〇分に数量二五〇〇株、指値二五一〇円、期限今週とする新たな買付注文があったものと誤解して誤ってC伝票を作成したことになる。本件全証拠によっても、C伝票、D伝票のいずれが正しいか断定し難いが、両伝票を比較検討すると、D伝票が先に作成され、後日C伝票が作成されたものと窺い得ないわけではなく、C伝票が右のように誤って作成された可能性が高い。

そして、証拠(甲一の7、原告本人)によると、20番の取引は、D伝票記載の指値変更がなされた六月二三日一〇時二〇分より前の同日九時五分に約定されたものであることが窺われないではない。

以上の点に証拠(甲七の2、原告本人)を合わせ考えると、20番の取引も18及び19番の取引と同様六月一九日の買付注文(同月二二日に期限を出合いから今週中に変更したことによって、六月一九日の注文と別個の注文がなされたものとは認められない。)によるものである可能性が高いものというべきである。

したがって、18ないし20番の取引は、一回と計算するのが相当である。

(3) 42ないし47番の取引について

42及び43番の取引に係る第一証券の株式売付注文伝票には、銘柄が住友建設株、受注日時が一二月二五日一四時五二分、数量が一万株、単価が成行、期限が当日である旨記載され、同日一五時三〇分に二〇〇〇株につき単価六六五円で、八〇〇〇株につき単価六六一円で約定が成立した旨記載されている(乙二の四二頁)。したがって、42及び43番の取引は、同一日時の注文として、売買の回数を一回と計算すべきである。一方、44及び45番の取引に係る株式売付注文伝票(二通)には、それぞれ、銘柄が中国電力株、受注日時が同日一四時五〇分、数量が44番については五〇〇〇株、45番については三〇〇〇株、単価が指値で一九八〇円、期限が当日である旨記載され、同日一五時三〇分に二〇〇〇株につき単価一九九〇円で、同日一五時三一分に八〇〇株につき単価一九八〇円でそれぞれ内出来として約定が成立した旨記載されており(乙二の四三頁及び四四頁)、これらも同一の取引とみるべきであるが、これらは、42及び43番の取引と時間的に非常に接着した取引であり、国税不服審判所の採決も42ないし45番の取引を一括して一回と認定している(甲六の1)ところであるが、後記のとおり、中国電力株の売付注文に際しては、それを分散発注とするため、電話でのやりとりに数分程度の時間を要したことは十分あり得ると考えられるので、一二月二五日付けの住友建設株と中国電力株の注文は、実質的には同一の機会になされたものということができ、42及び43番の取引と44及び45番の取引は、銘柄は異なるものの、一つの取引意思に基づくものとして、売買の回数は一回とするのが相当である。

また、46番の取引に係る株式売付注文伝票には、銘柄が中国電力株、発注日時が同月二六日八時五二分、数量が五〇〇〇株、単価が指値で一九八〇円、期限が当日である旨記載され、同日一〇時四二分に五〇〇〇株全部につき単価一九八〇円で約定が成立した旨記載されており(乙二の四五頁)、47番の取引に係る株式売付注文伝票には、銘柄が中国電力株、発注日時が同月二八日八時四九分、数量が一〇〇〇株、単価が成行、期限が当日である旨記載され、同日一〇時三二分に一〇〇〇株につき単価一九五〇円で約定が成立した旨記載されている(乙二の四六頁)が、これらは、別個の日時の注文として別個の取引と認定すべきである。

この点につき、原告は、中国電力株については、同月二五日に一括注文したのに、市場が閑散なために担当者の独断で数回に分けて発注したような伝票を作成したものであると供述する。しかしながら、そうであるなら、売付注文は一括で受けておいて、市場での売買を数回に分けて行うことも可能である(これまで見たように、同一日時の注文で約定が別日時にわたることは当然ありえることである。)上、第一証券の担当者も、右のような市場の状況を原告に報告した上で対処したとの報告書を提出している(甲五)のであって、しかも、単価の異なる注文となっていることからしても、注文を複数回に分けたことが原告の意思に基づくものであることは明らかというべきであり、当事者の内心の意図はともかく、取引としては別個のものとみるのが相当である。

なお、第一証券支店長作成の「中国電力株式一括受注に関する件」と題する書面(甲二の1)には、原告は、一二月二五日に中国電力株一万株の売付けを一括注文し、これに対し、同日二八〇〇株、同月二六日五〇〇〇株、同月二八日一〇〇〇株がそれぞれ内出来として約定が成立した旨記載されているが、前記売付注文伝票の記載に照らし信用し難い。したがって、42ないし47番の取引については、結局、売買の回数を三回として計算するのが相当である。

(4) 48番の取引について

原告が48番の取引を行ったことは、前記のとおり当事者間に争いがなく、右取引に係る売買の回数は一回と計算すべきである。

(5) 77ないし79番の取引について

77及び78番の取引に係る東洋証券の買伝票には、銘柄が九州電力株、発注日時が八月三日九時三五分、数量が三三〇〇株、単価が指値で二一二〇円、期限が出合いである旨記載され、同日前場において三三〇〇株全部につき単価二一〇〇円で約定が成立した旨記載されており(乙五の一四頁)、また、79番の取引に係る買伝票には、発注日時が同日一〇時三七分、数量が三〇〇株、単価が指値で二一〇〇円、期限が当日である旨記載され、同日前場において三〇〇株全部につき単価二〇九〇円で約定が成立した旨記載されている(乙五の一五頁)から、これらの取引は、日時の異なる注文に基づく取引として、売買の回数は二回と計算すべきである。

この点につき、原告は、八月三日九時三九分の出合発注のみであり、79番の取引は、単価が指値以下になったから自動的に売買が成立したにすぎないと主張し、本人尋問においてもそのように供述する(なお、原告は、同日一〇時三七分に注文したことは自認しているが、それは単純な追加注文にすぎないと供述している。)しかしながら、後者の注文では期限及び指値の変更も行っているのであって、これが別個の注文になることは明らかというべきである。なお、原告は、買付注文で指値の指定は無意味であると供述するが、指値を超えて買付けてはならないという意味で、買付注文に指値を付けることに意味がないわけではない。

また、原告は、右取引については、基本通達九-一五の注書き(それによれば、当該株式又は出資の売買が証券会社との間の一の委託契約に基づいて行われたものであるかどうか明らかでない場合には、証券会社から交付を受けた売買報告書に記載されている取引ごとに一回とし、ただし、同一銘柄につき同一日付で交付を受けた売買報告書が二以上ある場合において、その日の当該銘柄に係る取引は、売買報告書の数のいかんにかかわらず、売付け又は買付けの別にそれぞれ一回とすることができるとされている。)を適用すべきである旨主張するが、右注書きの規定は、本文の記載から明らかなように、当該株式又は出資の売買が証券会社との一の委託契約に基づいて行われたことが明らかでない場合を前提とするものであるから、前記のとおり、明らかに別個の委託契約に基づくものと認められる右取引にこれを適用することはできないというべきである。

(三) 以上によれば、原告の昭和六二年分の株式の売買の回数は、前記争いのない四四回に右(二)の(1)ないし(5)の合計九回を加えた五三回となるから、その売買益は、所得税法九条一項、同法施行令二六条一、二項の規定により雑所得として課税の対象になるものと認められる。

(四) そして、原告の雑所得の金額は、本件取引による売買益三〇〇一万五〇九六円から広島市信用組合戸坂支店の手形借入に係る支払利子額五万三七二八円(原告は、右金額については明らかに争わないから自白したものとみなす。)を差し引いた二九九六万一三六八円となる。

四  そうすると、原告の昭和六二年分の総所得金額は、前記争いのない利子所得、配当所得及び給与所得の各金額の合計二二〇万三二八九円に右雑所得の金額二九九六万一三六八円を加えた三二一六万四六五七円となるが、被告の本件更正は、この範囲内でなされたものであるから適法である。

五  本件更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一、二項に基づいて被告がなした過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

第三結語

よって、本件訴えのうち延滞税賦課決定の取消請求に係る部分は、不適法であるから却下することとし、原告のその余の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高升五十雄 裁判官 喜多村勝徳 裁判官 角井俊文)

別表一

課税処分等経過表(昭和六二年分)

〈省略〉

別表二

株式取引回数の内訳表 (昭和62年分)

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

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